万平ホテルの裏手にある、歴史深い別荘地。その中を迷路のように伸びる軽井沢に唯一残された石畳の道をご存じでしょうか。車一台がやっと通れるほどの小径で、案内板もなく、初めて訪れる人にはとても分かりにくい場所です。でも、「ハッピーバレー(幸福の谷)」と呼ばれるそこは、別世界のような美しさ。鳥のさえずりしか聞こえない、静かなゆっくりとした時間が流れます。
静謐という言葉そのままの、美しく、幸福を感じる小径
美しい場所だとご紹介しましたが、なぜそのような名前がついたのかというと、訪れた宣教師たちが、そのあまりにもの美しさに感激したからだそう。本当に心から幸せを感じたのでしょう。地元の人たちからは、「桜の沢」と呼ばれ、親しまれています。
ハッピーバレーの別荘地には、川端康成やオノ・ヨーコの別荘(小野家別荘)も現存します。ジョン・レノンもこの道を家族で散歩をしたのでしょうか。そんな思いに耽けながら散策するのも楽しみ方の一つです。
美しさを演出する主役が「苔」。別荘に暮らす人々の思いが宿る
訪れる季節によって表情がまったく異なるハッピーバレー。落ち葉を踏みしめながら散策する晩秋も素敵ですが、やはり一番のおススメは新緑から初夏の頃。石垣に生える苔は若草色に染まり、石畳の苔も芽吹き始めます。6月の後半には、小径全体が苔で覆われます。この苔こそが、一番の見どころなのです。
別荘に暮らす方々も、お手入れの時は苔を大切にそのまま残そうと申し合わせておられるそうです。そういった素敵な価値観が共有されているからこそ、みんなが愛する軽井沢になるのですね。石畳を覆う木々は、太陽の光を浴びて、こちらも若草色に染まります。その木漏れ日のなんと美しいことか。まさに別荘地軽井沢ならではの新緑の光景です。
堀辰雄の代表作「風立ちぬ」もハッピーバレーで執筆された
「私の借りた小屋は、その村からすこし北へはいった、ある小さな谷にあって、そこいらにも古くから外人たちの別荘があちこちに立っている、-なんでもそれらの別荘の一番はずれになっているはずだった。そこに夏を過ごしに来る外人たちがこの谷を称して幸福の谷と云っているとか」(堀辰雄『風立ちぬ』最終章「死のかげの谷」)。
小説家・堀辰雄が、代表作「風立ちぬ」の終章「死のかげの谷」を書き上げたのが、ハッピーバレーでした。1937年(昭和12年)の年末、その年に川端康成が購入した別荘(第一山荘:現存せず。今あるのは昭和16年に購入した第二別荘)に滞在し、執筆したそうです。
「死のかげの谷。…そう、よっぽどそう云った方がこの谷には似合いそうだな、少くともこんな冬のさなか、こういうところで寂しい鰥暮(やもめぐ)らしをしようとしているおれにとっては」(堀辰雄『風立ちぬ』最終章「死のかげの谷」)。
とはいえ堀も軽井沢をずいぶんと気に入ったようで、昭和16年にスミス山荘を購入しています(【軽井沢・堀辰雄】軽井沢を愛し、軽井沢が舞台の作品も残した文豪:参照)。
散策の後は、万平ホテルでジョン直伝のロイヤルミルクティーを
ハッピーバレーを訪れたら、ぜひ立ち寄りたいのが「万平ホテル」です。とても格式のあるホテルですが、宿泊客でなくても利用できます。おススメなのは「カフェテラス」。あのジョン・レノンファミリーもお気に入りだったことで有名です(【軽井沢・万平ホテル】ジョン・レノンも愛した本格西洋ホテル:参照)。
どれもおいしそうなメニューばかりですが、中でも注文したいのがロイヤルミルクティー。ジョン・レノンがレシピを教え、それが今では定番となったという逸話付きの逸品です。
季節オープンのウッドデッキでは、わんちゃんと一緒に利用することが可能なので、愛犬家の方も気軽に訪れることができますよ。
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- 営業時間/9:30~18:00
- 全席禁煙
- 予約不可
- メニューは季節ごとに変動
幸福の谷 周辺マップ
まとめ
いかがでしたか? 一度は訪れてみたくなりましたか? きっと軽井沢の思いでの美しい一ページになると思います。
こうやって軽井沢のスポットとしてご紹介していますが、近隣の別荘に暮らす人々にとってはプライベートな散歩道。ですから訪れた際は、当然のことではありますが、そういった方々への配慮・マナーも忘れないでおきましょう。
万平ホテルからの行き方
万平ホテルの入口左側に、地図には無い細い道があります。(写真A参照)その道を道なりに進むと幸福の谷へ続く道に出ます。(写真B参照)